こよみのアトリエ

詩とか日記とか何かの感想とか。自分のことかいいことしか言いません。

『灰空と怪物』

灰色の空を見たことはあるか

 

ビルに囲まれたこの街では

夕暮れと夜の狭間

一瞬だけ 空が鼓動を止めるのだ

夕焼けの赤を手放し

夜空の青を拒んで

雲ひとつすら纏うことなく

その空は 色を無くすのだ

 

それは 下手な滅びよりもよっぽど

世界が終わるような空で

誰も気付かないまま

誰にも気付かれないまま

僕は 僕だけは

その灰色と そっと世界から零れ落ちる

 

 

今日も 人を食い潰して生きた

駅前をふらつきながら歩く老婆を

自転車で転び泣く少年を

残業終わりに電話をくれる父を

全てを赦し 笑ってくれる貴女を

僕は食べた 食い潰した

 

まるで 絵本に出てくる怪物みたい

人を食べる 醜い怪物

 

 

午後6時の空は灰色だった

人の行き交う国道沿いで 僕だけがまた足を止めた

零れ落ちる

何かが

人間になれない僕と共に

 

 

空の話をした時

「羨ましい」と 貴女だけが言った

「いつか私も見てみたい」と

見れるものか 貴女なんかに

だって貴女は 誰よりも人間なのだから

 

絵本に出てくる怪物の末路は

退治されると相場が決まっている

どうせ空は灰色だろう

僕の亡骸は 遂に狭間に消えるのだ

 

(灰色は、怪物たちの亡骸の色か。)

 

 

午後6時の空は灰色だった

僕だけがそこで足を止めた

隣に貴女がいないことに

少しほっとしながら

今日も

そっと

息を止めて

零れ落ちた

 

 

 

以下、作品解説等。

 

福岡ポエトリー 10月回 発表作品

 

 

灰色の空の話です。

灰空「と」怪物です。「の」じゃないです。

 

灰色の空は実在します。

日が沈む直前、まだ空が赤い間、

夕焼けの赤から夜空の青に向かって、

空の色がグラデーションのようになっている時間帯があります。

普通は夕焼けが強すぎるのでこれらの色が前面に出てくることはないのですが、

立ち並ぶビルに夕暮れの赤が隠される時、

一瞬だけ、ビルから覗く空が色を持たないことがあるのです。

灰色の空は、私も1回しか見たことがないんですけどね……。

これはその時に思いついて書いた詩です。

夕方から夜にかけての空は様々な表情を持っています。

帰り道に足を止めて上を見上げたら、初めて見る景色が広がっているかもしれませんよ。

 

その時はくれぐれも、

世界から零れ落ちないようにだけお気をつけ下さい。

 

では、作品解説(?)をば。

 

人の好意を食いつぶして生きています。

周りの人は皆本当に優しくて、

あらゆる形で私を助けてくれるのに、

私は何もお返しせずに、

一方的に、どこかでそれを当然のように思いながら、

泣きながら優しさを食べています。

 

怪物の話は『CQ』でもしたことがありますね。 

koyomi-atelier.hatenablog.com

自分の中に棲んでいる、或いは自分を食い破って出てくる怪物は、

私の心のどろどろした部分の中でも、特に強いものの1つです。

なんとかしたいなぁ、と数年前くらいからずっと思いながら、

結局どうにもできず今に至ります。

 

せめてちゃんとお返しはできるようになりたい。

他の人と同じように、支え合って生きていけるようになりたい。

そうじゃなきゃこの先生きていけない。

同じ人間ならできるはずなのに、

何で言葉が出てこないんだろう。

何で体が動かないんだろう。

もっとスマートに生きたい。

もっと人並みに思いを伝えられるようになりたい。

 

そう思いながら生きています。

はやく人間になりたーい。