『終末論』
「先生、明日世界が滅びるそうです。
大きな地震が起こって、
街も自然もめちゃくちゃになるって、
テレビでそういってたの。
困っちゃいますよね、そんなの。
部活とか受験とか、恋とか。
まだまだやりたいことたくさんあるのに」
「先生、明日世界が滅びるそうです。
宇宙人がやってきて、
地球をまるごと侵略するって、
佐倉くんがそういってたの。
笑っちゃいますよね、そんなの。
知らない誰かに殺されるなんて、
どうしようもなく理不尽ですし」
「先生、明日世界が滅びるそうです。
植物が突然変異して、
人間社会を飲み込んじゃうって、
雑誌にそう書いてたの。
滅茶苦茶ですよね、そんなの。
そりゃあ向日葵とかの方が、
私なんかより、綺麗だけど」
「先生、明日世界が滅びるそうです。
AIが暴走を始めて、
世界中が火の海になるって、
弟がそういってたの。
ひどいですよね、そんなの。
皆何もかも燃やされるなんて
皆、頑張って作ったのに」
「先生、明日世界が滅びるそうです。
隕石が落っこちて、
長い長い冬が来るって、
映画でそういってたの。
寂しいですよね、そんなの。
春が来ないなら冬なんて
何も、何も意味がないのに」
「先生、明日世界が滅びるそうです。
この世界は誰かの夢で、
その子が目覚めて全部おしまい。
そんな、そんな気がしたの。
あんまりですよね、そんなの。
だって。そんなの。
全部偽物だったってことじゃないですか」
「ねえ、先生」
以下、作品解説等。
ポエトリースラムジャパン2018 東京大会B
1回戦Cブロック 発表作品
先生と、恋をした少女の話。
私が最初に書いて、最初に読んだ詩です。
禁断の恋とはよく言ったもので、フィクションの世界でも先生と生徒の恋なんてものはよく取り上げられたりします。
高校生の頃は私の周りにも、先生やOBOGの先輩に叶わない想いを抱く友人は何人かいて、難儀なものだと思いながらいつも見ていました。
物語ならいざ知らず、現実はそんなに甘くなくて、そんな恋なんて実らないまま終わることの方が多いです。
そして、真面目な子ほど、その事実にすぐ気づいてしまい、人知れず諦めてしまったりします。
この少女もそんな「夢を見れなかった人」の1人。
好きであることすら許されない。日常はつまらない。
得体の知れない劣等感に苛まれ、未来を見ようにもお先は真っ暗。
かといって死のうにもその勇気もない。
「いっそ、世界もろとも滅びないかなぁ」
そんな漠然とした思いから出た笑い話。
でも、先生がとても食いついてきて。
そこから、放課後の内緒のお話が始まりました。
びくびくしながら、勇気を出して話を切り出した春。
放課後「終末論」を話すのが日課となってきた夏。
部活の引退、大量の模試、成長と努力を迫られる秋。
大学入試に進路決定、現実を突きつけられる冬。
積もっていく不安と恋心をたくさんの「終わり」で包み隠して、
大好きな先生と、少しでも長くお話をしてて。
でも、いつか「卒業」がやってきます。
真っ暗な未来へと足を踏み出す日が。
叶わない恋と決別する日が。
先生のいない世界で私はどう生きればいいのでしょうか?
あの放課後の日々は、少しずつなかったことになるのでしょうか?
私はこれからどう生きていけばいいのでしょうか?
この先、私は誰を頼ればいいのでしょうか?
……こんな私でも、一人で生きられるのでしょうか?
少女が、先生に宛てた最後の言葉。
それは皆様のご想像にお任せします。
私の中にも1つ答えがあるので、
いつか、それもお伝えできる機会があれば素敵ですね。