こよみのアトリエ

詩とか日記とか何かの感想とか。自分のことかいいことしか言いません。

『24hours girl』

悪魔と契約した。

そして僕は少女になった。

きらきらした大きな瞳。

透き通るような白い肌。

そして、鈴みたいな高い声。

夢かと思った。まあ、夢だけど。

 

どうやら悪魔はまだ見習いで、

1日だけしか魔法が保たないらしい。

魔法が解ければ今日は消え去る。

私は、僕に戻る。

 

「あと16時間」

私には、時間がない。

 

「あと14時間」

少女なら、きっと何者にでもなれるのだ。

長い髪だって許される。

唇に赤い紅を引いたり。

長い爪にマニキュアを塗って。

スカートなんかも履いちゃってみたり!

 

「あと11時間」

待ち合わせはお馴染みの駅で。

掲示板の前で手を振るあの子。

今日は、胸を張って隣を歩ける。

だって、今は私も、

少しは可愛いでしょう?

 

「あと9時間」

しゃらん、しゃらん。

あの子が歩くだけで可愛い音がする。

からん、ころん。

あの子が笑うだけで素敵な音がする。

2時間前の自信が、あっけなくしぼんでいく。

少女なだけでは、まだ足りないみたい。

 

「あと7時間」

花火大会まで少しお買い物。

あの子を必死に追いかけながら、

こっそり笑顔の練習をする。

「どうしたのユウちゃん?変な顔!」

……変な顔、か。

 

「あと6時間」

あの子の家でお色直し。

水色の浴衣、私なんかに似合うだろうか?

隣の白い浴衣のあの子は、

消えてしまいそうな程、綺麗で。

 

「あと4時間」

人混みに流されながら進む。

スタバで時間を潰したのが裏目に出た。

だって、人混みは苦手なんです。

はぐれないようにずっと手を繋ぐのは、

私には刺激が強すぎるから。

 

「あと2時間」

花火が、上がる。

あの子の笑い声が轟音にかき消される。

夢の終わりの足音が聞こえた。

 

「あと1時間」

少女になって分かったのは、

僕じゃ少女になれないことだった。

目を輝かせているあの子は、あまりにも遠すぎたのだ。

あの子みたいになれたら。

心から、少女でいられたら。

 

「あと20分」

気づけば轟音は喧騒に変わっていた。

夢は醒めるものだ。

少女になれなかった僕は、また現実へと

「ねえ」

 

「今日のユウちゃん、いつもより可愛かった!」

 

 

 

 

私の魔法は、まだ解けない。

 

 

 

 

以下、作品解説等

 

ポエトリースラムジャパン2018 東京大会B

準決勝CDブロック 発表作品

 

 

1日だけ少女になった話です。

タイトルが文法的に誤っている気もするのですがそこはノリでスルーです。

 

私がPSJで発表した中では一番点数が低かったものの、

個人的にはかなりお気に入りです。

その分「もっと活かせてあげれたなぁ」という気持ちも強いので、

いつか改稿してどこかでもう一度出せたらなぁと思います。

 

この原稿は第3稿。

初稿の時点では、今とは全然違う構成になっていました。

最初に見習い悪魔がガーッと台詞をまくしたてて、

30秒後くらいにようやく本題へ。

その後途中までは現行のものと同じ流れが続きますが、

最後は「私(僕)」が「あの子」に告白して終わりでした。

「私(僕)」が「あの子」に抱いている感情も、

現在のものでは憧れの一種としているのですが、

初稿時点では恋心でした。もう全然別物です。

 

最初の見習い悪魔の口上は、尺が足りないので泣く泣くカットしました。

あれまくしたてられたら絶対楽しかったのになぁ……(泣)

 

最後の展開は……告白の方がベタで素敵だし、

物語的にも綺麗に収まるとは思ったのですが、

悩んだ末に本番2日前に書き直しました。

理由は3つあります。

1つ。ベタな展開はつまらないなと思ってしまったから。

2つ。私(月白こよみ)が同じように少女になれたとして、絶対に告白とかしないから。

3つ。「私(僕)」に、そんな能動的でドラマチックな最後はいらないと思ったから。

 

ああなりたい。こうなりたい。夢見る自分になりたい。憧れの自分になりたい。

それが誰にでも共感してもらえるものなら目指せばいいでしょう。

でも、そうでない願望だってあります。

気持ち悪いから、自分でもその存在を認められない。

馬鹿にされるから、口が裂けてもその願いは言えない。

 

 

そう分かっていながらもなお「少女でありたい」と願った時、

本当に欲しいのはありがちなドラマでも劇的な結末でもなくて、

ただ、「君はそれでいいんだよ」っていう、

その一言なんじゃないかなって思ったんです。

それが意識的なものであれ無意識的なものであれ、

その小さな「承認」にこそ、救いがあるのではないかと考えたんです。

 

だから、評価が落ちるのを覚悟で最後を書き換えました。

「ずっと前から好きでした」から、

「今日は、いつもより可愛かったよ」に。

消えてなかったことになる夢を、

また認められなくなる願いを、

それでも認めてあげたかったから。認めてほしかったから。

 

まあ正直、もう少し良い言葉・展開もあった気はするのですけどね!

そこは私の技量不足ですね……反省。

今度改稿するときは、もっとちゃんと彼女を救えたらな、と思います。

 

以上、少女の話でした。

本当は1つ隠していることがあるのですが、

それはまた機会があればにいたしましょう。

(隠しきれている自信はあんまりないですが……)